65歳の日記

なすすべなく壊れゆく洗車

今日は久しぶりに気温が高かったので、洗車をしてきた。

途中手洗い時間のあるコース、600円也。

洗車をして、一所懸命ワックスもかけた。

ワックスまでやったのは、去年の夏以来だ。

洗車のガンから放たれる高圧の水を見ると、私はいつもある光景を思い出す。

もう23年ほど前。

私の車はキャロルという軽自動車だった。

青い車体でドアだけ黄色のアクセントをつけた、それはそれは可愛い愛車だった。

そのキャロルに、娘と当時飼っていたゴールデンレトリバーを乗せて、きつきつの状態で走っていたものだ。

後部座席にはドアがないので、ゴールデンは運転席から乗り込んで、運転席と助手席の隙間から勢いよく後部座席に飛び込んでいた。

その一連がダッシュのように早くて、いつもののんびりしている我が家の犬の唯一の活発な姿だった。

可愛い車をいつもキレイに保ちたくて、私はマメに洗車に通っていた。

その日も、自宅近くのスタンドに行った。

乗ったままのセルフ洗車機。

もうすっかりと慣れている(何もしないから)

いつもどおりにドライブスルー型の停止線までいった。

あとは、ひたすら終わるのを待つのみ。

青や黄色のブラシを眺めている。

その時に、私はあるミスに気がついた。

ラジオのアンテナをしまい忘れている。

電動ではないから、自分で伸縮させるタイプ。

洗車の時は、事前にしまいきらないといけなかった。

今日も全部、伸ばし切っている。

それに気づいたのは、もうブラシがキャロルの鼻っ柱を洗い始めている時。

水は全体にかかっている。

あー!

あー!

ど、どうしたらー!

窓はもう開けることはできない。ドアも開けることはできない。

電動の窓ではないから、手動であけることは可能だが、すでに危険な状態になっている。

私は犬とともに、中で叫んでいた(犬は叫ぶ私に驚いていたが、吠えはしない)

騒ぐと万一状況を気づいてもらえて、停止してもらえるかと、叫んだ。

すぐにブラシはアンテナまできた。

キャロルのアンテナは弱かった。

すぐに少しずつ左右に揺れ、全体を洗うブラシに何度も何度もなぞられるうちに、ついにほぼ180度近くまで(車体と水平)横になってしまった。

何度も叫び、もう終わってくれと祈ったが、こんな時にかぎって長時間作業をしているような感覚になる。

猫だと思った。

今や、このアンテナは猫のヒゲだと思った。

猫の野放図に伸ばしているヒゲ。

それが左右に揺れたり、横になったり。

なぜ、猫と思ったのかはわからないけれど、強烈に、それは猫のヒゲだった。

すっかり、猫のヒゲとなったアンテナの状態で、洗車機から出てきた私と愛車は、そのまま拭きあげもせずに家に戻った。

恐らく、スタンドの人にも気づかれてはいなかったので、この失態を見せたくはなかった。

家に戻り、少しずつ少しずつ横になったアンテナを戻してみた。

まだちぎれてはいなくて、円柱が楕円形に変形していたけれど、戻しているうちに、少しずつ亀裂が入って、当日だったかは忘れたが、結局アンテナは取ってしまった。

それからすこしたって、16年乗ったキャロルは手放した。

新しい車に乗り換えたからだけど、下取りになったが、おそらくは廃車になっただろう。

モノにも魂があると思っている私は、キャロルに対して本当に申し訳ないと思った。

あの「なすすべのない状態」は何に例えることができるだろう。

もう、決まったコースに突き進むだけの状態。

戻ることができない残酷さ。

乗ったことを後悔しても、引き返せないジェットコースターだったろうか。