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私が小学校1~2年生の時だから、58年前くらいの話。
すっごい昔で、自分でも驚く。
入学したころの同級生の名前はわりと覚えている。
しかも漢字で記憶している。
その中に、ナガキ君がいる。
ナガキ君。もちろん漢字だけれど、特定されたくないので苗字とも名前とも言わないけれど、漢字のフルネームで覚えている。
このナガキ君のことを、不思議なほどによく思い出す。
それも、ひとつのシチュエーションだけ、ナガキ君の手から生み出される絵の数々。
絵、というよりイラスト? マンガ?
車だったり、動物だったり、ロボットだったり。
私たちが毎日夢中でテレビで見るものばかり。
「○○描いて」とリクエストすると、手がクイクイって動いて、ノートの上に新しい絵柄が生み出される。
リクエストされるどんなモノもナガキ君が描いてくれた。
どんなリクエストと言っても、私の記憶のページでは、ナガキ君にリクエストを出しているのは私しかいない。
隣あった席の私とナガキ君だけの世界のような記憶。
おそらくはほんの少しの記憶の破片なんだろうとは思う。
ナガキは人気者だったから、私だけというのはあり得ない。
とても不思議なのは、そうやって描いてくれたナガキ君だったが、それ以外の記憶が私にはまったくない。
手が動くナガキ君はいても、体が動いているナガキ君の記憶が一切ない。
歩いている姿の記憶もない。
リクエストに応えてしゃべることはあっても、それ以外に話をしている姿の記憶もない。
ただ、違う学校の先生の子どもだったことは聞いたことがある。
年に一度くらいの割合でナガキ君を思い出していた。
ナガキ君の手が魔法のように動いて、新たな絵の命がノートの上に生まれる。
魔法のような手先。
私の記憶の目は、いつも右側に座っているナガキ君の手元を見ていた。
10年くらい前だろうか。
何となく、覚えている名前をネットで検索してみた。
ナガキ君のことも検索をした。
ナガキ君。ヒットした。
ナガキ君の名前は決して多くはない。
私のこれまでの人生の中で、ナガキ君と同じ苗字さらに同じ名前の人は見たことがない。
絶対ということは言えないかもしれないが、ヒットした人はナガキ君だと思う。
ナガキ君は、ある大手の外車ディラーの役員として、写真もネットに載っていた。
正直、顔ははっきりとは覚えていないし、50年はたっているからあてにならない。
でも、年齢は合致しているように見える。
ネットに出ているナガキ君のプロフィールがわからないけれど、穏やかな雰囲気はあの当時も感じていた。
きっと、きっと、ナガキ君だ。
すごい紳士になっていて、ステキだ。
私は5年生で転校をしたから、その後の事はわからないけれど、ナガキ君は教師の家庭のお子さんだから、おそらく転校をしているだろう。
どこかに転校して、中学、高校、大学と進んで、働いて出世されたのだろう。
ナガキ君らしいな。そんな感じの男の子だった。
出世したハンサムな同級生がいて嬉しいって事ではない。
元気そうで嬉しいってことでもない。
ただ、検索したらヒットして、あ、間違いない!って事に気持ちが躍るだけ。
私はハッキリとあの「魔法の手」を思い出すけど、ナガキ君は私を覚えてはいない。
ナガキ君の手が「魔法の手」でなければ、私も覚えてはいないだろう。
ナガキ君は、絵の天才であり、瞬間をとらえる天才なのだと思う。
そこに魅せられて、私は何十年たってもナガキ君を忘れないし、思い出すのだろう。
ナガキ君も、絵を描いている自分を思い出すことがあるだろうか。