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私の「浴槽」が永遠に使えなくなった。
ここは賃貸のマンション。12月でまるっと20年。
この人生で、一番長く暮らしている。
私の良い時も、悪いときも共に暮らした。
そろそろ「浴槽」が恋しくなるこの季節、突然「浴槽」は使えなくなった。
貞子の井戸に蓋があったかどうかは知らないが、私の浴槽には開かない蓋がされるようだ。

夏になってからはシャワーばかりで、浴槽にお湯をはることはなかった。
8月末になって、久しぶりに湯舟につかってみたが、どうも、これが階下の壁に沁みたらしい。
排水の部分の金具の一部が欠損したらしく、それが原因のようだ。
欠損していると言われても、欠損をさせた覚えは一切ない。
5~6年前に排水につながる「栓」を付け替えただけ。
それ以外は、それ以前もその後もなにもしてはいない。
何だかわからないけれど、銀色の何かがついていて、それが無くなると補修が出来ないらしい。
どうして無いのか… そんなことを言ってもしょうがないらしく、浴室のユニットを丸ごと交換する以外に方策はないという。
ユニットごとの入れ替えとなると、工事も大変らしくて、日数も手間もかかるらしい。
好きに暮らしている壁の飾りとかも、洗濯機もどけないといけないらしくて、それは面倒だと少々不貞腐れ気味になってしまう。
それでも、しょうがないので、工事をするものと思っていた。
費用は概算で100万円ほど。それをオーナーに掛け合うとのこと。
その返事は翌日きた。
結果。ユニットを交換する費用は出せない。との事。
ここは私が入居してから20年、それ以前も築20年以上であったと思うので、50年近い物件になっている。
鉄筋でエレベーター付きで、外側は大きいけれど、造りはまさに昔の仕様で、洗面台もない。
洗面台のあるところは、ユニットバスの浴槽に丸い容器をつけているようなものだ。
私の部屋は、それではないので、そもそも洗面台はない。
洗濯機を置くスペースもものすごく狭く、洗濯機があるためにトイレのドアは完全開戸はできない。
建てた当初はきっと、その地では珍しい高級マンションに見えたことだろうと思う。
贅沢を言ってはキリがないし、そもそも贅沢を言えるような立場でもないから、私はこれで気に入って生活をしていた。
近年、転居で部屋が空いても、積極的に室内の補修工事をしていない。
きっと、補修をして入居させるより、そのままにしていつか取り壊すのだろうと想像をしていた。
まだ、実際に退去の話などは出てはいないけれど。
だから、私がこの部屋を出たあとには、その後の募集はしないつもりで、お風呂のユニットは入れ替えない算段なのだろう。
100万円は回収できないと。
10年前ならば、きっとユニットの交換をしたことだろう。
さて。
管理会社からの今後の条件はこうだ。
1. 現在の家賃から1万円さげて、浴槽を使わない。シャワーは今まで通りに使用可。
2. 現在空いている隣の部屋に転居する。この際の一切の費用はオーナーがもつ。家賃は現 行のまま
その場で、「1」は却下。湯舟を使えないなんて、この先は冬になるのにあり得ない。
「2」は体力的に避けたい。いくら一切をやってくれると言っても、自分の手は必要になる。
今更、どんな良い部屋でも移動する元気はない。
つまり、「1」は完全に却下。
「2」は消極的却下。
「一応、隣の部屋、見てみるかい?」
って、ことで、一応隣の部屋を参考に見ることにした。
結果。見たことで、隣の部屋の移動はこの時点で完全になくなった。
無人の古い部屋は、それだけであまり気乗りはしないけれど、肝心の浴室がとても汚い。
古いのもあるし、長年手入れをしていないのだろう。
この浴室なら、浴槽どころか、洗面台もシャワーも使わない。
浴室に入室することもはばかられる。
私が特別キレイ好きなワケではなくて、私が普通なはずだから。
「さっき、1番はなし!って言ったけど、1番復活させて。それで考えるわ」
ってことにして、球はまたこっちに帰ってきた。
浴槽を使えない1番は絶対にないと思ったけれど、それ以上に2番は無くなった。
この時点で、私は1番に傾いていたけれど、返事は少し伸ばした。
即、返事をすることが何故か悔しかったからだ。
頭の中では、近場の銭湯、もしくはスーパー銭湯を思い出していた。


この10年ほどで、銭湯はことごとく無くなった。
以前は、徒歩5~10分のところに2軒もあったのに。
普段はシャワーでも良いけれど、やっぱり冬場には湯舟に入りたい。
そうでなければ温まることができない。
幸い、まだ車を乗る身。
あまり遠くにならない場所で検索をしてみよう。
そういうことで、返事は3日待たせて、「1」にすると返答。
すぐに、浴槽に蓋をする工事の業者さんが見に来た。
その見積をオーナーに出すという。それから工事。
この工事こそ、断るはずはないだろうから、近日工事に入ると思う。
こうして、私の浴槽は二度と使用できなくなった。
最後に使った8月27日。
こんな事態を予想できたら、もっと時間をかけて、少々高い入浴剤でもいれて、なんなら本でも読みながらゆっくりすれば良かったよ…。
と、寂しい気持ちになってしまう。
管理会社の管理人さんは、普段から懇意にしていて、軽口をとばす。
「1万下がって、いくらになるのか、俺は知らないけど」
って言うから、金額を教えた。
「その金額、絶対にこのあたりでは出てこない金額だよ!」と驚いていた。
もう8年ほど前に、定年が近いと言ったら管理会社の人が当時のオーナーに掛け合ってくれて
その時点で8千円安くなっている。
今回の件で、借りた当初より1万8千円も下がることになる。
物件の価値で家賃は下がることもあるだろうけれど、この立地的には下がる要素はない。
言ってみれば、超安い家賃になる。駐車場もある。
「それなら、風呂くらいいいべさ」
「んなワケ、ないしょや」
家賃は安くなったけれど、浴槽を諦めるには、なかなかに時間がいる。
ここで一気によそに転居を考えないのは、私の年齢では新規に部屋を借りるのは大変難しいからだ。
ここで、余計なことに時間と神経を使うのは人生の無駄だ。
20年、トラブルなしで暮らしてきた信用を捨てることはできない。
こうして、思いもよらないトラブルで、「浴槽」のあるお風呂生活を捨てることになった。
いつかはこのマンションから去る日もくるだろうけれど、新しいところで果たして一人で湯舟に入れる保証はない。
介助が必要な状態になっているかもしれない。
もう、熱いカラダでビールを飲むことはないと思うと空しい気持ちになる。
よその家庭でもらうお風呂と、自分の陣地ではあきらかに違う。
たくさん降ってくる思いに、私はまだ整理が出来ていない。
突然フラれたような、泣くヒマもないような、そんな気持ち。
1万さがってラッキー! って、ほくそ笑む日が、早くきてほしい。
